当館について

館長あいさつ

 今西祐一郎前館長からタスキを受け取り、国文学研究資料館(国文研)の館長に就任しました。私ごとですが、1990年代の後半をここで教員として過ごし、その後、東京大学へ移り、この春17年ぶりに古巣に戻る格好となりました。その間、国文研は場所も外見も一変しました。多くの教職員も交替しました。何よりも、文系基礎学を取り巻く社会的状況と情報技術の変化によって、前世紀の面影はほとんどありません。 

 活字離れや少子化、インターネットの普及などが原因で文学が社会と結び合うダイナミズムが減退していると、一部では言われています。しかし私は逆に、今日ほど、日本の長い歴史に育まれ「文学」として伝わって来ている人文知から多くを学び、感じ取るのに適した時代はなかったように思います。  

 1300年以上の歴史を刻む文学に対する理解は、日本という1カ国の中で完結するものではありません。日本は、上代から東アジア文明世界の中で成り立ち、中世から近世にかけては世界の情報を俊敏に捉え、自律的に文化を築きました。近代では、欧米の文明に活溌な交渉を持ち続けました。私たちが「文学」と呼んでいるものは、近代より前においては歴史、思想、兵法、宗教、美術史などをも包容するいわば「人間学」と呼ぶにふさわしい広大な領域を形成していました。  

 かつての日本文学には美しく多様な表記体系があり、口承性や、図像との融合といった人間の感覚に訴える幅広い様式がありました。「他者の目を通して世界を見る能力」、つまり共感するキャパシティのことを「教養」と言い換えるならば、日本文学にはその能力に応え、支え、そして深める条件を十分に満たしていることは間違いありません。  共感し、他者から世界へとつながることを望ない人はいない。しかし確かな理性と、検証を可能にするファクトに裏打ちされない「共感」ほど人を不幸にするものはないことも、歴史が教えてくれます。国文研のミッションを問われれば、私は「文字で書かれた人間による想像と現実の軌跡を留め、整理し、現代の感性と知性に開放し活用することである」と答えたい。  

 国文研では、従来の調査収集と国文学論文データベース構築の成果をふまえ、3年前から全館態勢で取り組んでいる大規模学術フロンティア促進事業「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」を鋭意進めています。30万タイトルという膨大な古典籍画像にタグ付けし、オープンデータ化させ、国内外の研究者と連携することによって古典を現代に開放することを目標に掲げています。研究者が先頭に立って一言語圏の原資料を形態と内容両面から捉えるプロジェクトとして、世界では類を見ない仕組みです。持続的な取り組みから、文学を通して、現代社会と結び合うダイナミズムを創り出すことができると信じる次第です。  

 刻々と変化する学術の姿を見据えながら、大学共同利用機関としての使命を果たしていきます。課題も、もちろんあります。ウェブサイトの他言語化や、日本文学以外の研究者との連携深化、文化的創造への活用促進、インタープリターの人材育成、等々です。皆様の知恵と一層のご協力を頂きたいと願うゆえんです。

館長 ロバート キャンベル

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